ライトファンから見たアーセナル

素人が偉そうにアーセナルの戦術を語ります

xG的には悪化している今シーズンのこれまでの成績

 まだ今シーズン(2019-2020)は4節まで終了しただけですが、昨シーズン(2018-2019)の成績と比べてみたいと思います。まず、今シーズン、アーセナルはここまで、

  2勝1分1敗 7P

  6得点6失点

の成績を上げています。一方、昨シーズンは4節終了時点で

  2勝0分2敗 6P

  8得点8失点

の成績を上げていました。

 昨シーズンの同時期に比べると、得点が減った代わりに失点も減っており、わずかですが勝点が多くなっています。ただし、昨シーズンはここから連勝をしたことなどから、通算で

  21勝7分10敗 70P

  73得点51失点

であり、これを4/38にすると

  2.2勝0.7分1.1敗 7.4P

  7.68得点5.37失点

となります。したがって、今シーズンこのペースでいくと、昨シーズンを下回る成績となってしまうので、4位以内を目指すには今シーズンもここからペースを上げる必要があります。


 ところで、試合結果は偶然の要素が大きいためunderstat.comにおけるxGの4節終了時点の合計値、xGを四捨五入した勝敗及び勝点を算出してみたところ、

 今シーズン

  1勝2分1敗 5P

  5.31得点6.49失点

 昨シーズン

  1勝2分1敗 5P

  6.11得点5.69失点

であり、勝点こそ同じものの、実は得点期待値も失点期待値も今シーズンは昨シーズンよりも悪化しています。


 まだ4試合経過しただけでなので、現時点での成績に一喜一憂するつもりはありませんが、ゴールキックからのビルドアップが昨シーズンからほとんど改善されていないことが個人的には気になります。リバプール相手ならまだしも、ショートパスによるゴールキックからのビルドアップをプレー原則に組み込んで1年も経つのにニューキャッスルやバーンリー相手にもまともに前進できないのは不安でしかありません。ジャカへの批判が多いですが、ジャカが出場していない2節バーンリー戦もうまくいっていない上、現状の戦力で戦略を考えるのが監督の役割であって、現状の戦力でCB2名、FB2名、CM2名を左右対称の六角形に並べてこれにGKを加えた7名でビルドアップし、10番はどちらかといえば出口に設定するエメリの戦略自体に問題があるように思います。

ジャカ批判に感じるネガティブバイアス

 9月1日のトッテナム戦は2-2の引き分けでした。この試合の2失点目ではジャカがペナルティエリア内で危険なタックルをし、PKを献上してしまいました。

 このタックルがされた際、決定的な場面を作られていたわけではなく、ジャカの不用意なタックルは批判されてしかるべきです。もっとも、だからといって、ジャカを起用するべきではないという意見は感情論であって、論理的ではなく、冷静になるべきです。


 ジャカはこれまでも軽率なミスが比較的多い選手でした。そのため、ジャカは少なくないアーセナルファンから批判がされてきました。しかし、この評価は正しいものでしょうか。これまでにも1度記載したことがありますが、昨シーズンアーセナルは平均して1試合当たり1.84Pの勝点を上げていました。このうち、ジャカがセントラルミッドフィルダーとして先発した試合は1試合当たり1.96Pの勝点を上げていました。一方、ジャカが先発していない試合は1試合当たり1.78Pの勝点しか上げていませんでした。このことはジャカがアーセナルのその他のセントラルミッドフィルダー(トレイラ1.88P、グエンドージ1.74P)よりもアーセナルの勝利に貢献していたことを示しています。したがって、ジャカはミスはあるものの、それ以上にその他のプレーでアーセナルの勝利に貢献していることになります。


 では、なぜジャカは少なくないファンから執拗に批判されるのでしょうか。おそらくそれは、ネガティブバイアスと言われる人間が多かれ少なかれ生まれつき持っている認知の歪みが原因ではないかと思います。

 ネガティブバイアスとは、ネガティブな体験や記憶に過剰に反応し、ポジティブな情報よりネガティブな情報の方を評価してしまう傾向を言います。例えば、1万円を拾ったもののそれを落としてなくしてしまった場合にネガティブな感情になってしまったとすれば、本来差し引きゼロであるので、それはネガティブバイアスがかかったものと言えます。そして、一般的には、ネガティブバイアスにより、ネガティブな要素の3倍のポジティブな要素がなければ、人はネガティブになってしまう傾向があると言われています。このような認知の歪みは当然物事に対する正当な評価を誤らせてしまうため、社会生活を営む上では注意する必要があります。


 ジャカの話に戻しますが、ジャカは明らかなミスが比較的多い選手であり、ファンにネガティヴバイアスがかかりやすい選手と言えそうです。このような場合、客観的な事実関係を基に評価しなければ、実際の貢献を過小評価する可能性が高くなります。

 そこで、ジャカについて検討すると、ジャカに対する批判として、ミスのほかに、機動性に欠けていることがよく挙げられます。確かにジャカは機動性には乏しい面があることは否めません。しかし、そもそもジャカには相手ゴール前まで行って得点に絡むプレイを求められる8番タイプの役割が与えられているわけではなく、オフェンス時であっても深めの位置に待機して守備に備え、ディフェンス時には最終ライン前のバイタルエリアのスペースを埋める6番タイプの役割が主に与えられているのであって、機動性はそこまで求められていません。また、プレス下におけるワンタッチで散らすパスはグエンドージやウィロックといった若手より上であり、機動性が低いといっても他のアーセナルのCMと比べてプレス耐性が著しく低いわけではありません。

 逆に、縦パスの能力は高いですし、高身長で体格も良いため空中戦も強く、昨シーズンの空中戦デュエル勝利数ではsofascoreでジャカ1.8(55.9%)、トレイラ0.5(44.7%)、グエンドージ0.5(42.9%)で、他のCMを圧倒しています。

 これらのことからすれば、ジャカは6番タイプの選手としてアーセナル内では優れた能力を持っているといえ、そのことは先に述べたジャカ先発出場試合の勝点がアーセナルの平均勝点よりも高いことと整合します。


 これらからすればジャカは不要で、起用するべきではないといった批判は、ネガティブバイアス(さらには、イジメにも繋がる同調性バイアス)の影響による冷静さを欠いたものだと思います。なお、ムスタフィについてもジャカと同様のことが言えると思います。ムスタフィは、昨シーズン、CBとして先発出場した試合では1.83Pの勝点を上げており、1.84Pのソクラティスとほとんど変わりませんでした。それどころか、コシェルニーの1.54Pをはるかに超える数値でした。しかし、少なくないファンがコシェルニーの移籍には難色を示しつつ、ムスタフィの売却を主張していました。これは、目に見えるミスが多いムスタフィにはネガティブバイアスがかかり、目に見えるミスの少ないコシェルニーとの間で、実際の勝点への貢献と逆転する評価が両者にされたことによるものだと思います。


 話を戻しますが、既に述べたとおり、昨シーズン時点ではジャカの方がトレイラ、グエンドージよりも高パフォーマンスを発揮しており、ジャカを起用するエメリの判断は間違っていません。もちろん、より成長の余地が大きく、また2年目でよりチームにフィットしていくはずのトレイラ、グエンドージがいずれジャカのパフォーマンスを上回る可能性は十分にあります。しかし、それは今後の三人のパフォーマンスを見てエメリが判断していくことになります。


 また、ジャカを批判する人の中には、アーセナルは、ジャカのポジションを補強すべきだったと言う人もいます。これは冷静な意見であり、私自身、ジャカが最高クラスの選手だと思っているわけではなく、補強費用が十分にあるのであれば、そのとおりだと思います。しかし、残念ながらアーセナルの補強費用はかなり限られており、補強できるポジションは限られていました。そして、今シーズンは、少ない予算の中、ウイング(ぺぺ、マルティネリ)、8-10番タイプの選手(セバージョス)、左バック(ティアニー)、センターバック(ルイス、サリバ)を補強しましたが、これらのポジションよりもジャカのポジションを補強すべきだったでしょうか。私はそうは思いません。なお、こういった場合、よくジャカを売ってその金で新しい選手を買えばいいと言う人もいますが、ジャカが2番手、3番手ならともかくファーストチョイスであるにもかかわらず放出して、フィットするか分からない新戦力にかけるというのはリスクが高すぎ、現実的な考えだとは思えません。

 次に、ジャカのポジションを今後補強することについてです。これはもちろんジャカよりも明らかに能力が高い選手がいて獲得できる予算も十分にあるのであればいいと思います。しかし、若くて、プレスに当たり負けしないパワーがあり、ターンとドリブルでプレスをかわせるテクニックがあり、効果的な縦パスが入れられ、守備がうまく、広範囲をカバーできるスピードもあり、空中戦に強く、ミスも少ない選手って、いったいいくらで獲得できるのでしょうか。しかも、レンタルにすぎないセバージョスのポジションは絶対に金を出して獲得しなければならず、ジャカのポジションにまで十分な予算を出せるかはかなり微妙で、なかなかに難問だと思います。

レノはロングパスが苦手らしい

 アーセナルは、8月24日の3節リバプール戦は1-3で敗れてしまいました。リトリートで、4-3-1のブロックを自陣ゴール前に築きつつも、2人のストライカーは高い位置に残すという攻撃的なロングカウンター戦術でした。失点してしまう前に先制できそうな場面もいくつかあり、これを活かせなかったのが勝負のアヤでしょうか。


 この試合で私が注目していたのは、前回の投稿で記載したとおり、①ゴールキックからのビルドアップをどうするか、②ロングフィードをどれだけ用いるかの2点でした。

 この点、①ゴールキックからのビルドアップには若干の修正が見られ、②ロングフィードはダビドルイス、ジャカが連発していました。これからこれらのことについて述べたいと思います。


 まず、①ゴールキックからのビルドアップです。アーセナルは、この試合でもゴールキックからのビルドアップを諦めず、基本的にはレノがショートパスでボールを出していました。

 ゴールキック時の選手配置は、下記図のとおりです。

 ゴールキック時は、この図のとおり、ソクラティスはゴールエリア右にいたのに対し、ダビドルイスがペナルティエリア左まで開いていました。また、中盤ではウィロックが左アウトサイドレーン〜左インサイドレーン、セバージョスが中央レーンに位置取り、中盤が左サイドに偏っていました。このようにアーセナルはこの試合で左右対称であった1、2節とは異なる選手配置にしてきました。

 

 ゴールキックからのビルドアップは、この位置関係をベースに下記のように行われました(→はショートパス、↗はロングボール)。


①01.43

 レノ→ルイス↗ぺぺ ✕

②08:45

 レノ→ルイス↗オーバメヤン ✕

③11:56

 レノ→ルイス→レノ→ソクラティス→ナイルズ→グエンドージ→ソクラティス↗モンレアル→ジャカ↗オーバメヤン △

④24:29

 レノ↗オーバメヤン ✕

⑤45:55

 レノ→ルイス↗オーバメヤン ✕

⑥55:33

 レノ→ソクラティス→グエンドージ→レノ→ルイス→モンレアル→ジャカ→グエンドージ→ジャカ↗ウィロック △


 ③⑥は最終的にロングボールが通らなかったものの、追い詰められて出したロングパスというわけではなく、この試合の狙いであるロングフィードの一環と思われます。一方、①②⑤ではプレスをかいくぐることができませんでした。

 今回、ダビドルイスをゴールキック時に左アウトサイドレーンまで離したのは、ダビドルイスのところまでにプレスが来る時間を作ることで、ダビドルイスに正確なロングフィードも狙える時間を与えたいという考えがあったのかもしれません。しかし、中央レーンにいるサラーの寄せが速く、ダビドルイスは右斜め前を向いて落ち着いて右足でロングボールを蹴るだけの余裕はほとんどなく、①②⑤の3回中、②⑤の2回は利き足でない左足でオーバメヤンへロングボールを出していました。


 次に、②ロングフィードです。これについては、前節に続いてダビドルイスが積極的に蹴っていたほか、今節では怪我から復帰したジャカも普段に増してロングフィードを出していました。チャンスになる場面もあり、ロングフィードはハイプレスをしてくる相手には今後も積極的に使って欲しいところです。


 以上のゴールキックからのビルドアップとロングフィードを見ていて思ったこととして、ダビドルイスを左CBに配置するのは正しいのでしょうか。というのも、ゴールキックで左のダビドルイスに出してしまうと、ダビドルイスはプレッシャーを逃れるため、どうしても左前を向いてしまいがちです。そうすると、角度的に利き足である右足でのロングフィードなどができなくなってしまいます。また、ジャカは今節は3CMの中央でしたが、普段の2CMの場合は左側に位置しています。すると、ダビドルイスを左CBに配置すると、せっかくロングフィード、縦パスの出し手が二人いるにもかかわらず、ロングフィード、縦パスが出てくるポイントが一緒という相手にすれば守りやすい状況となってしまいます。

 ダビドルイスは左足でも強くボールを蹴れるとはいえ、そのロングフィード能力を最大限活かすことを考えれば、右CBとする方が利点が大きいように思います。


 ところで、今シーズン始まってから私は各チームのGKのパスに比較的注目して試合を見てきましたが、レノはミドルレンジのロングボール(言葉が変ですね。「ミドルレンジ」なのに「ロング」ボールって。)を蹴ること自体が少ないし、これは素晴らしいパスと思うことも少ないように思いました。チェフを見てきた私としては、「レノは、足元はトップレベルではないものの上手い部類」という認識で、一般的なアーセナルファンも同様の評価だと思っていました。しかし、ほかのGKのミドルレンジのロングボールなどを見ているうちに、実はレノのロングボールの精度はあまり高くないのではないかと思いました。そこで、Whoscoredを見てみたところ、

Weaknessesの欄にばっちりLong passingの文字がありました。


 皆さんは、このこと知ってましたか?


 まあ、WhoscoredのCharacteristicsはホントかよって思うこともままあるので、信用できるかは分かりませんが。