ライトファンから見たアーセナル

素人が偉そうにアーセナルの戦術を語ります

ジャカ批判に感じるネガティブバイアス

 9月1日のトッテナム戦は2-2の引き分けでした。この試合の2失点目ではジャカがペナルティエリア内で危険なタックルをし、PKを献上してしまいました。

 このタックルがされた際、決定的な場面を作られていたわけではなく、ジャカの不用意なタックルは批判されてしかるべきです。もっとも、だからといって、ジャカを起用するべきではないという意見は感情論であって、論理的ではなく、冷静になるべきです。


 ジャカはこれまでも軽率なミスが比較的多い選手でした。そのため、ジャカは少なくないアーセナルファンから批判がされてきました。しかし、この評価は正しいものでしょうか。これまでにも1度記載したことがありますが、昨シーズンアーセナルは平均して1試合当たり1.84Pの勝点を上げていました。このうち、ジャカがセントラルミッドフィルダーとして先発した試合は1試合当たり1.96Pの勝点を上げていました。一方、ジャカが先発していない試合は1試合当たり1.78Pの勝点しか上げていませんでした。このことはジャカがアーセナルのその他のセントラルミッドフィルダー(トレイラ1.88P、グエンドージ1.74P)よりもアーセナルの勝利に貢献していたことを示しています。したがって、ジャカはミスはあるものの、それ以上にその他のプレーでアーセナルの勝利に貢献していることになります。


 では、なぜジャカは少なくないファンから執拗に批判されるのでしょうか。おそらくそれは、ネガティブバイアスと言われる人間が多かれ少なかれ生まれつき持っている認知の歪みが原因ではないかと思います。

 ネガティブバイアスとは、ネガティブな体験や記憶に過剰に反応し、ポジティブな情報よりネガティブな情報の方を評価してしまう傾向を言います。例えば、1万円を拾ったもののそれを落としてなくしてしまった場合にネガティブな感情になってしまったとすれば、本来差し引きゼロであるので、それはネガティブバイアスがかかったものと言えます。そして、一般的には、ネガティブバイアスにより、ネガティブな要素の3倍のポジティブな要素がなければ、人はネガティブになってしまう傾向があると言われています。このような認知の歪みは当然物事に対する正当な評価を誤らせてしまうため、社会生活を営む上では注意する必要があります。


 ジャカの話に戻しますが、ジャカは明らかなミスが比較的多い選手であり、ファンにネガティヴバイアスがかかりやすい選手と言えそうです。このような場合、客観的な事実関係を基に評価しなければ、実際の貢献を過小評価する可能性が高くなります。

 そこで、ジャカについて検討すると、ジャカに対する批判として、ミスのほかに、機動性に欠けていることがよく挙げられます。確かにジャカは機動性には乏しい面があることは否めません。しかし、そもそもジャカには相手ゴール前まで行って得点に絡むプレイを求められる8番タイプの役割が与えられているわけではなく、オフェンス時であっても深めの位置に待機して守備に備え、ディフェンス時には最終ライン前のバイタルエリアのスペースを埋める6番タイプの役割が主に与えられているのであって、機動性はそこまで求められていません。また、プレス下におけるワンタッチで散らすパスはグエンドージやウィロックといった若手より上であり、機動性が低いといっても他のアーセナルのCMと比べてプレス耐性が著しく低いわけではありません。

 逆に、縦パスの能力は高いですし、高身長で体格も良いため空中戦も強く、昨シーズンの空中戦デュエル勝利数ではsofascoreでジャカ1.8(55.9%)、トレイラ0.5(44.7%)、グエンドージ0.5(42.9%)で、他のCMを圧倒しています。

 これらのことからすれば、ジャカは6番タイプの選手としてアーセナル内では優れた能力を持っているといえ、そのことは先に述べたジャカ先発出場試合の勝点がアーセナルの平均勝点よりも高いことと整合します。


 これらからすればジャカは不要で、起用するべきではないといった批判は、ネガティブバイアス(さらには、イジメにも繋がる同調性バイアス)の影響による冷静さを欠いたものだと思います。なお、ムスタフィについてもジャカと同様のことが言えると思います。ムスタフィは、昨シーズン、CBとして先発出場した試合では1.83Pの勝点を上げており、1.84Pのソクラティスとほとんど変わりませんでした。それどころか、コシェルニーの1.54Pをはるかに超える数値でした。しかし、少なくないファンがコシェルニーの移籍には難色を示しつつ、ムスタフィの売却を主張していました。これは、目に見えるミスが多いムスタフィにはネガティブバイアスがかかり、目に見えるミスの少ないコシェルニーとの間で、実際の勝点への貢献と逆転する評価が両者にされたことによるものだと思います。


 話を戻しますが、既に述べたとおり、昨シーズン時点ではジャカの方がトレイラ、グエンドージよりも高パフォーマンスを発揮しており、ジャカを起用するエメリの判断は間違っていません。もちろん、より成長の余地が大きく、また2年目でよりチームにフィットしていくはずのトレイラ、グエンドージがいずれジャカのパフォーマンスを上回る可能性は十分にあります。しかし、それは今後の三人のパフォーマンスを見てエメリが判断していくことになります。


 また、ジャカを批判する人の中には、アーセナルは、ジャカのポジションを補強すべきだったと言う人もいます。これは冷静な意見であり、私自身、ジャカが最高クラスの選手だと思っているわけではなく、補強費用が十分にあるのであれば、そのとおりだと思います。しかし、残念ながらアーセナルの補強費用はかなり限られており、補強できるポジションは限られていました。そして、今シーズンは、少ない予算の中、ウイング(ぺぺ、マルティネリ)、8-10番タイプの選手(セバージョス)、左バック(ティアニー)、センターバック(ルイス、サリバ)を補強しましたが、これらのポジションよりもジャカのポジションを補強すべきだったでしょうか。私はそうは思いません。なお、こういった場合、よくジャカを売ってその金で新しい選手を買えばいいと言う人もいますが、ジャカが2番手、3番手ならともかくファーストチョイスであるにもかかわらず放出して、フィットするか分からない新戦力にかけるというのはリスクが高すぎ、現実的な考えだとは思えません。

 次に、ジャカのポジションを今後補強することについてです。これはもちろんジャカよりも明らかに能力が高い選手がいて獲得できる予算も十分にあるのであればいいと思います。しかし、若くて、プレスに当たり負けしないパワーがあり、ターンとドリブルでプレスをかわせるテクニックがあり、効果的な縦パスが入れられ、守備がうまく、広範囲をカバーできるスピードもあり、空中戦に強く、ミスも少ない選手って、いったいいくらで獲得できるのでしょうか。しかも、レンタルにすぎないセバージョスのポジションは絶対に金を出して獲得しなければならず、ジャカのポジションにまで十分な予算を出せるかはかなり微妙で、なかなかに難問だと思います。

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