ライトファンから見たアーセナル

素人が偉そうにアーセナルの戦術を語ります

最下位相手のハイリスクロングカウンター戦法の失敗とエメリ解任論の急浮上(2019.09.15ワトフォード戦)

 2019/09/15のワトフォード戦は、アウェイとはいえ、4戦勝ち星なしで監督を早くも解任したワトフォード相手に、しかも前半に2点先取したにもかかわらず、後半に23本ものシュートを浴びて2点を失って2-2で引き分けました。understat.comのxGでは2.83-1.01で完敗で、逆転されずによかったとしか言えないような悲惨な試合内容でした。


 この試合についてですが、①ゴールキックからのビルドアップ、②4-3-1-2採用の是非、③エメリの解任論の3つについて話したいと思います。


 まず、ゴールキックからのビルドアップについてです。このブログでは奇しくもちょうど前回の投稿でゴールキックからのビルドアップの不安について触れましたが、ついに今回のワトフォード戦でレノのショートパスを受けたソクラティスがパスをカットされ、失点しました。このときの選手配置ですが、基本的に次のような配置になっていました(映像に映っていない前線の選手の配置はこれまでのゴールキック時の配置からの想像です。)。


 この日、アーセナルはほぼ同じ選手配置で、次の通り、ゴールキックを行っていました。(→はシュートパス、↗はロングパス、⇒はこぼれ球)


4:23

 レノ→ソクラティス→ナイルズ→グエンドージ ✕

13:08

 レノ→ソクラティス→ナイルズ→ぺぺ→ソクラティス↗エジル→コラシナツ→ジャカ ◯

34:49

 レノ→グエンドージ ✕

35:23

 レノ→ルイス↗オーバメヤン ✕

46:42

 レノ→ルイス↗ぺぺ⇒セバージョス ◯

51:19

 ?→グエンドージ→ナイルズ→エジル ✕

52:54

 レノ→ソクラティス→グエンドージ ✕ 失点

58:06

 レノ→ソクラティス→ナイルズ→ぺぺ ✕

59:53

 レノ→ルイス↗オーバメヤン ✕

63:14

 レノ↗オーバメヤン ✕

64:27

 レノ→ナイルズ→ぺぺ→ナイルズ↗エジル ✕

66:27

 レノ↗オーバメヤン ✕

68:40

 レノ↗オーバメヤン ✕

86:37

 レノ↗オーバメヤン⇒ジャカ→ウィロック ◯


 このうちほぼショートパスのみでビルドアップを成功させたのは7個のうち13:08の1個だけでした。レノ又はダビドルイスが大きく蹴った7個のうち、46:42、86:38の2個については最終的にアーセナルがボールを獲得しているので、大きく蹴るよりも低い確率でした。


 このアーセナルのゴールキック時の選手配置は、この試合のみならず、これまでの試合でもほぼ同じです。そして、そのほとんどのショートパスによるビルドアップに失敗しています。

 アーセナルには空中戦に強い前線の選手がいないため、ゴールキックにおいてショートパスを主体にするのはもちろん構いません。しかし、この配置ではミドルレンジのパスの出しどころが少なく、ショートパスがみえみえで格好のプレスの餌食であり、ショートパスによるビルドアップがいつも失敗に終わるのは構造的な問題も少なくないと思います。以前の投稿で書いたとおり、私はレノのキック精度に疑いを抱いていますが、仮にレノのミドルレンジのパス精度に難があるためにミドルレンジのパスコースを作っていないのであれば、ダビドルイスかジャカにでもゴールキックを蹴らせれば済むだけの話です。なぜ失敗を繰り返しているのにエメリがいつまでも改善措置を取らないのか不思議でたまりません。

 今回のゴールキックが失敗に終わって失点したことで今後ゴールキックの選手配置が改善されるきっかけになればと思います。

 

 次に4-3-1-2の是非についてです。この試合のフォーメーションは以下の図のとおり4-3-1-2でした。


 4-3-1-2は一般論としてはリトリートして4-3で守って、1-2でのロングカウンターに適していると言われています。そして、選手の配置上、中盤中央の守備は固いものの、中盤サイドのスペースは空きやすく、同所からのクロスに対応できるようCBには空中戦の強い選手が求められるとされます。また、前線にはドリブルやペースに優れた選手やパスに優れた10番が向いているとされ、手薄なサイドからのクロスはあまり期待できないため、前線に高さはあまり必要ないとされています。

 この一般論に当てはめると、比較的空中戦に強いダビドルイス、ソクラティスをCBに有し、空中戦は弱いもののペースに優れたオーバメヤン、ドリブルに優れたぺぺ、パスに優れたエジルを前線に有するアーセナルには向いているフォーメーションのようにも思えます。

 しかしながら、4-3-1-2の唯一の成功例と言えば、2004-2005シーズン頃のACミランでしょうが、その当時のミランはカフー、スタム、ネスタ、マルディーニの最終ラインに加え、ガットゥーゾという中盤の潰し屋もおり、守備に秀でているとは言い難いアーセナルの守備陣とはまったく異なります。しかも、その当時よりも戦術が発達した現代フットボールにおいては4-3の守備ブロックの弱点であるサイドのスペースから徹底的に攻められます。とすれば、アーセナルのメンバーで4-3で守り切るのは至難の技で、1-2のオーバメヤン、ぺぺ、エジルの守備参加が必要不可欠です。しかし、試合を見る限り、オーバメヤン、ぺぺ、エジルらに守備が求められていたようには見えず、往年の4-3-1-2のロングカウンター戦術そのものでした。

 現在のアーセナルで、往年の4-3-1-2のロングカウンター戦術を行うことは、失点のリスクが極めて高く、DAZNの解説者が言っていた「肉を切らせて骨を絶つ」と言えば聞こえは良いですが、要は、ギャンブル戦術と言えます。このようなギャンブルを、アンフィールドでのリバプール戦のようにまともに戦っては勝ち目が低いような試合でするのはまだ分かりますが、アウェイとはいえ、新監督を迎えたばかりの最下位ワトフォード相手にする必要があったでしょうか。そして、幸運にも2点先取してハーフタイムを迎えたにもかかわらず、後半まで4-3-1-2でハイリスクを抱える必要があったでしょうか。私は、そうは思いませんし、ほとんどのファンが同じ考えだと思います。

 もっとも、エメリの狙いは元々ロングカウンターではなかった可能性もあります。すなわち、オーバメヤン、ぺぺをサラー、マネ、エジルをフィルミーノに見立て、リバプールのようなプレッシングフットボールをしたかったという可能性です。しかし、その場合、最終ラインは高い位置をキープし、フィルミーノ役のエジルがプレスバックをして相手を追い回す必要がありますが、最終ラインはすぐに下がっていましたし、エジルにプレスバックの意識はほとんどなったので、プレッシングフットボールをしようとしていた可能性は低そうで、やはりロングカウンター狙いだったと考えるべきです。

 そして、実際の試合では前線がたまに前プレスしても最終ラインが押し上げず、最終ラインがリトリートしても前線が高い位置に残るちぐはぐさで、間延びした中盤サイドをワトフォードに自由に使われてシュートを次々と打たれ、終盤は守備で疲弊し切った選手が動けないような目を覆いたくなるような惨状でした。

 リバプール戦の4-3-1-2、トッテナム戦の4-1-2-3に続いて4-3-1-2が採用されたということは、エメリは、今シーズンは3センターを採用しようと考えているのかもしれません。しかし、どちらであっても、3センターの場合は、中盤サイドが弱いため、ウィングを守備に加えた4-1-4か4-5ブロックを作るか、リバプールのようにハイラインで前線にプレスバックさせなければ中盤が崩壊してしまうと思います。3試合のいずれも結果が出ていませんが、今後もエメリが3センターを継続するのか1つの注目ポイントになりそうです。

 

 最後にエメリの解任論についてです。この試合の内容があまりに悪かったためと思いますが、この試合後、エメリを解任すべきという意見がファンの間で急激に強まりました。私もゴールキックからのビルドアップがいつまでも改善されないことや守備組織が構築されないことなどから、エメリの監督としての技量に疑いを感じ始めています。

 私は、ベンゲルがチャンピオンリーグを逃したときにベンゲル解任支持派になりましたが、その際、私は新監督には戦術の柔軟性を望んでいました。しかし、それは、確固たるベースを持ちながら、対戦相手に応じて攻めどころや攻撃意識、プレス開始地点、ライン設定、選手起用などのディテールを変更することであって、カメレオンさながらにチームカラーまで変えてしまうような戦術の変更ではありませんでした。私のほかにも同じような思いを持っている人は多いのではないでしょうか。

 しかも、今シーズンはこれで5試合終えて2勝2分1敗の勝点8Pで、昨シーズンのラスト14試合が7勝2分5敗の勝点23Pであることから、エメリのラスト19試合は勝点31Pであって、これはシーズン62Pペースです。これは昨シーズンのマンチェスターユナイテッドよりも悪い成績になります。

 もっとも、主力であったモンレアルが移籍し、ベジェリンが怪我で長期離脱中で、現在のコラシナツ、ナイルズのフルバックコンビはプレミアリーグ最弱の守備力ではないかと疑いたくなるレベルですし、左ウイングはミキタリアン、イウォビの移籍によりオーバメヤンをセンターにすると計算できる選手がいない上、ダビドルイス、セバージョス、ぺぺと3人もの新加入選手が並ぶスターティングイレブンに細かな連携は期待できないなど、エメリを擁護できる点は多々あります。そのため、現時点でエメリを解任するべきだとは思いません。しかし、怪我人が復帰し、新戦力も慣れてくるシーズン半分が経過した頃になっても状況が変わらないようであれば、アーセナルは早目に決断した方がいいかもしれません。

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