2019年夏の移籍市場の評価
2019年夏の移籍市場におけるアーセナルの立ち回りについて検討したいと思います。
まず、それに先立って、プレミアリーグの選手登録の決まりについて確認します。
プレミアリーグの選手登録は、シニア選手の登録は25名までで、U21の選手は無制限に登録することができます。
また、シニア選手のうち、ホームグロウン(以下、HG)でない選手は17名までしか登録できません。したがって、シニア選手枠を全て埋めるのであればHGの選手を8名以上登録する必要があります。
HG
21歳の誕生日又は21歳の誕生日を迎えたシーズンの終了までにイングランドのクラブで通算3シーズン又は36ヶ月間を過ごした選手
U21
1998.01.01以降に生まれた選手
以上を前提に今回の移籍市場でのアーセナルの選手の出入りを確認すると、
非HGシニア選手 19.08.10現在
00 コシェルニー 85.09.10 33 186 右
←out £4.6m
01 モンレアル 86.02.26 33 179 左
02 ダビドルイス 87.04.22 32 189 右
in→ £8m
03 ソクラテス 88.06.09 31 186 右
00 オスピナ 88.08.31 31 183 右
←out £3m
04 エジル 88.10.15 30 182 左
05 ミキタリアン 89.01.21 30 177 右
06 オーバメヤン 89.06.18 30 187 右
07 ラカゼット 91.05.28 28 174 右
08 レノ 92.03.04 27 190 右
09 ムスタフィ 92.04.17 27 184 右
10 エルネニー 92.07.11 27 180 右
11 ジャカ 92.09.27 26 185 左
12 コラシナツ 93.06.20 26 183 左
13 ぺぺ 95.05.29 24 183 左
in→ £72m
14 トレイラ 96.02.11 23 167 右
15 セバージョス 96.08.07 23 179 右
in→ レンタル
16 ティアニー 97.06.05 22 178 左
in→ £25m
17 マヴロパノス 97.12.11 21 192 右
HGシニア選手
00 ジェンキンソン 92.02.08 27 185 右
←out £2m
18 マルティネス 92.09.02 26 193 右
19 メイシー 94.09.09 24 200 右
20 チェンバース 95.01.20 24 183 右
21 ベジェリン 95.03.19 24 178 右
22 ホールディング 95.09.20 23 188 右
00 イウォビ 96.05.03 23 180 右
←out £34m
23 ナイルズ 97.08.29 21 177 右
U21対象選手
00 ビエリク 98.01.04 21 189 右
←out £10m
24 グエンドージ 99.04.14 20 185 右
00 エンケティア 99.05.30 20 175 右
←out レンタル
25 ウィロック 99.08.20 19 179 右
26 ネルソン 99.12.10 19 175 右
27 メドレー 00.07.07 19 195 左
28 スミスロウ 00.07.28 19 182 右
00 アメイチ 01.01.05 18 179 左
←out £2.25m
00 サリバ 01.03.24 18 193 右
in→ £27m ←out レンタル
29 マルティネッリ 01.06.18 18 180 右
in→ £6m
30 サカ 01.09.05 17 178 左
となっています。
まず、年齢構成ですが、24歳のぺぺ、22歳のティアニーという若い即戦力選手が加わり、来年度には現在18歳のサリバも加わることも決まっており、若い主力級の選手を獲得できました(セバージョスはレンタルなのでノーカウント。)。また、主力とはいえない、ベテランのオスピナ、ジェンキンソンを放出したほか、最年長のコシェルニーを放出し、コシェルニーよりは若干若いダビドルイスを獲得しました。主力級の選手であった23歳のイウォビを放出しましたが、それでも全体的には主力級の選手の年齢構成が少しだけ若くなったといえます。ただ、依然として30歳以上の選手が6名と比較的多く、今後も選手が急激に衰える前に若返りを図っていく必要があります。
また、現在、非HGの17枠全て使い切っているので、今後、新しい非HGの選手をと獲得するのであれば非HGの選手を放出する必要があります。一方、ジェンキンソン、イウォビを放出したことでHG枠には余裕があり、チーム力の底上げのためにはここの即戦力が必要です。
移籍の収支としては、購入額約£138m、売却額約£57mで、差し引き約£-80mの支出でした。今後の補強費への影響を考えると、若干不安があります。
次に、各ポジションごとに移籍による主な選手の変化を見ていきたいと思います。
ST オバ ラカ -エン
10 エジ (+セバ) (ミキ) (ウィ) ロウ
LW −イウ (ミキ) (ネル) +マル サカ
RW +ぺぺ ミキ ネル
CM +セバ (トレ) グエ ウィ
DM ジャ トレ チェ エル -ビエ
LB +ティ コラ モン
RB ベジ ナイ (チェ) -ジェ
CB +ダビ ソク ホー (チェ) ムス -コシ
マヴ
GK レノ -オス マル メイ
ストライカーは、補強はなく、第3ストライカーのエンケティアがレンタルで抜けました。これは若干の戦力ダウンではありますが、オーバメヤン、ラカゼットの2人とも怪我の離脱が少ない上、いざとなればぺぺ、マルティネッリがストライカーの役割を務めることができると思われます。そのため、エンケティアが抜けたことによる影響がそこまで大きいとは言えません。(A→A)
10番は、10番もこなせるセバージョスがレンタルで加わりました。エジルが昨シーズンフィットしきれず、今シーズンも復調するかは未知数ですし、ミキタリアン、ウィロックはエジルとはプレイスタイルが大きく異なるので、エジルと比較的似たタイプで、かつ守備も多少期待できそうなセバージョスはいい補強だと思います。(B→B)
左ウイングは、マルティネッリが加わり、イウォビが抜けました。ミキタリアンにはドリブル突破は期待できず、ドイツでレギュラーになれなかったネルソン、18 歳のマルティネッリが予想以上の活躍をしてくれないと、今シーズンのウイークポイントになってしまいます。(C→D)
右ウイングは、ミキタリアンにドリブル突破は期待できず、ネルソンもまだまだ未熟であり、アーセナルのウイークポイントでした。そのため、ドリブル突破も得点もできるぺぺは、まさに理想的な補強だったと思います。(D→B)
CM(8番)は、セバージョスが加わりました。このポジションは、トレイラも一応こなせますが、現時点での適正ポジションとは言い難いですし、そのほかはグエンドージ、ウィロックの若手しかいませんでした。近年、ゲーゲンプレスとハイプレス戦術が流行しているところ、アーセナルにはプレスをかわすのが得意な3列目の選手がおらず、密集地帯でのプレイも得意と言われるセバージョスの加入は大きいと思います。(C→B)
DMは、補強はなく、逆に昨シーズンにレンタル先の3部で活躍したビエリクを放出しました。ただ、ジャカ、トレイラ、チェンバースがおり、ビエリクの放出は戦力的にはほとんど影響はないかと思います。(B→B)
左バックは、ティアニーが加わりました。このポジションは、衰えのみえるモンレアル、守備に難があるコラシナツしかおらず、守備の穴だったので、ティアニーを確保できて良かったです。ティアニーは、スコットランドリーグの経験しかなく、かつ怪我がちということでどこまで活躍できるのか不安ですが、期待しています。(D→C)
右バックは、補強なしで、逆にジェンキンソンを放出しました。ベジェリンが長期離脱中で、ナイルズは守備と危機管理能力がまだまだで不安がありますが、一応、チェンバースもプレイできますし、ジェンキンソンの放出の影響はないと思います。(C→C)
センターバックは、コシェルニーが抜けて、ダビドルイスが加入しました。コシェルニーは衰えが目立っており、コシェルニーの代わりに1歳半若いダビドルイスを獲得できたことで若干ですが戦力アップしたように思えます。ただし、ダビドルイス、ソクラティス、ムスタフィのベテラン組はいずれもボールを獲りに行くタイプで被っている上、ダビドルイスは攻撃的なセンターバックなので、守り抜きたい場面では不安が残ります。(C→C)
ゴールキーパーは、オスピナが抜けましたが、昨シーズンレンタル先で活躍したマルティネスが残りましたので、戦力的には変わらないと思います。(B→B)
以上のとおり、アーセナルのウイークポイントであった右ウイング、左バック、CMの戦力については確実に戦力アップが図られた一方、左ウイングについては戦力ダウンし、アーセナルのウイークポイントとなってしまったと思います。
今回の移籍市場での立ち回りについての総評ですが、
ウイークポイントであった右ウイング、左バック、CMを補強できたこと
比較的若い即戦力が獲得できたこと
来季からとはいえ、将来が期待できるCBを確保できたこと
コシェルニーの予定外の強引な退団要求にもかかわらず、低予算でCB陣を整えたこと
は高く評価できます。一方、
左ウイングをウイークポイントにしてしまったこと
移籍収支が£80mと大赤字で、次回以降の補強に影響があると考えられること
30歳を越える高給ベテランが放出できていないこと
などはマイナスです。
したがって、現時点の評価としては、80点としたいと思います。今後も他リーグへの売却は可能であり、余剰戦力であるエルネニーを適正価格で売却し、超高給与で費用対効果が著しく悪いベテラン選手であるエジル(年£17.5m)かミキタリアン(年£10m)をある程度の金額で売却して換金できれば90点といえるでしょう。
最後に感想ですが、金がない、金がないと言われながら大盤振る舞いした、アーセナル史上、最もファンの予想をいい意味で裏切った移籍市場でした。
まず、ぺぺ。予算が£40mと言われ、ネームバリューのあるウイングは無理だと諦めていたところで、エメリが「数日で選手を数人連れてくる、一人はとっても高額」発言。もしや£30mとかでエヴェルトン連れて来てくれるのかと狂喜乱舞してると、まさかのぺぺ、£72m!!いやいや、フロントは思いきりましたね。ぺぺがプレミアリーグに適応できない場合、大丈夫でしょうか。
次に、ダビドルイス。ホールディングが長期離脱から復活し、来季サリバが加わってプレミアリーグに馴れるまでのつなぎのCBとして、32歳のプレミアリーグでの確たる実績あるCBをわずか£8mで獲得できたことは実に素晴らしいです。ダビドルイスは、コシェルニーの後釜ですが、プレイスタイル的にムスタフィの上位互換です(ポカも含めて)。ムスタフィを売却してプレミアリーグ未経験のぱっとしない中堅や期待先行の若手選手を連れて来るのはリスクが高すぎると思っていましたが、プレミアリーグに慣れ親しんだダビドルイスを加えたのであれば、比較的良い話があればムスタフィの売却はありですね。
最後にイウォビ。昨シーズンにかなり成長し、今シーズンはミキタリアンを抜いて左ウイングのファーストチョイスとして活躍してくれると思っていました。移籍金£34mは魅力的で売却も理解はできますが、左ウイングのファーストチョイスになろうとし、まだ成長も見込めたイウォビをライバルに売ったことは戦略的に正しかったのか分かりません。